スーパー超高感度カラーテレビカメラ・イベント&リポート

NC-R550bで、さらなる受精プロセスの解明に挑む

小島瑠夏 著

3月某日、卒業研究の発表も終わり落ち着き始めたこの日、お茶の水女子大学 大学院人間文化創成科学研究科 広橋教貴(HIROHASHI Noritaka)博士の研究室を訪れた。例年ならば春の気配を感じ始める時期だが、コートの欠かせない陽気は冬を思わせる。半面、構内には受験生の合格発表が貼り出されており、何処と無く息吹を感じる日だった。広橋博士は、私の質問に少々照れながら語ってくれた。

研究へのきっかけは「教科書の小さなイラスト」だった

学生時代、臨海実習で初めて見たホヤを使って受精実験を行ったことがこの世界への興味の始まりだったと言う広橋博士。何気なく眺めていた教科書に画かれた受精のイラストレーション。ある時、その定説を自分の目で見てみたいという強い興味を抱く。その時の想いが光学顕微鏡を覗く現在の日々へと続いていると言う。
ひとつの好奇心をきっかけに始まった広橋博士の研究は、これまで誰も成し得なかった実験テーマであり、試行錯誤の始まりでもあった。

目的を達成する為のシステムを模索する日々

広橋博士は、受精のメカニズムをその目で確認する為にトランスジェニックのマウスを分けてもらい、GFPの変化によって確認しようと考えた。
この実験の判断をする為にも、ぜひカラー動画で見てみたい…。こうして最初に試みた方法は、顕微鏡下で体内と近い環境をつくり、その様子をPC用のカメラモジュールを使って録画することだった。
映像をカラーで録画するアイデアは、後で見返すことができ良かった。ところが、感度やS/Nが低いPC用のカメラモジュールで撮られた映像は、解像度が低いうえにノイズばかりの荒いものだった。撮影時もHDDの残量を気にしながら行う作業を強いられた。システムの再検討が必要だった。

次に広橋博士は、業務用の監視カメラとTV録画用のHDDレコーダーを組み合わせた新しいシステムでの実験を開始する。しかし、実験上精子細胞のGFPの蛍光を確認する為に暗視野、明視野を切り替えるとカメラの感度追従が追いつかず、思い描いていた観察はできなかった。
その後も、複数の高感度カメラを試したが、感度が足りないうえS/Nも低く、ノイズに埋もれた映像は十分な観察環境とは言い難かった。また精子細胞も定説通りに反応せず、結局どの精子細胞が受精したか分からないまま、手順の見直しを繰り返すことになる。

何故、教科書通りに受精が確認できないのだろうと考えた時、あることを思いついた。
「もしかすると、教科書に載っていること以外のことが起きているかもしれない」
思考と模索を続けていくなか、ある日、偶然にも卵に接触する前にGFPの蛍光を確認できない精子細胞が受精する様子を確認することができた。しかし、この時撮影できた映像では、周囲を説得できるものではなかった。
「誰が見ても分かる映像を、どうすれば撮影できるのだろうか?」
その為には、感度を上げた状態でもノイズの少ない映像で、リアルタイム動画で撮影できる超高感度カラーカメラが必要だった。

理想的なカメラ、それがNC-R550bだった

条件を満たす理想的なカメラを探している最中のことだった。研究メンバーの藤原氏より顕微鏡撮影用スーパー超高感度カラーテレビカメラ「NC-R550b」の紹介を受け、試しに使ってみることにした。

広橋博士は目を疑った。その圧倒的な超高感度特性と高S/Nの映像は、予想をはるかに超えたものだった。これまでの高感度カメラでは、極微弱な光源のなかではノイズに埋もれ、鮮明な映像は得られなかった。ところがNC-R550bを使うと、これまで決して見ることができなかった受精の“プロセス”が、鮮明なカラー動画映像として浮かび上がってきたのだ。
手ごたえを感じた広橋博士は、早速NC-R550bを導入し、ニコン製の顕微鏡(TE2000-U)に取り入れた新しいライブイメージングシステムを組み上げ、実験を進めることにした。

NC-R550bがもたらす新たなライブイメージング

広橋博士の研究は、生きた検体を顕微鏡で観察することが大前提となる。その為、観察時に強い光源を使用することはできない。圧倒的な超高感度性能をもつNC-R550bなら、検体にダメージを与えない微弱光源下で生体のプロセスを見ることができるのだ。広橋博士の研究では何よりも重要な要素であり条件となる。

鮮明なカラー動画映像を映し出すNC-R550bを取り入れたライブイメージングシステムによって、GFP蛍光が確認できる精子と既に蛍光がない精子細胞をリアルタイムで見分けられるようになった。つまり、見たいターゲットを決めて追跡することが可能となったのだ。
さらに受精の一部始終の様子をHDDレコーダーに録画したことで、後から何度もプレイバックしながら受精の軌跡を確認することもできる。そしてついに「卵に接触する前にGFPの蛍光を失った精子細胞が受精する様子」の撮影に広橋博士は成功する。
さらに実験を重ねた結果、自分の思い描いていた定説通りの受精の様子も、希少例として撮影することができた。誰も確認することのできなかった受精プロセスを世界で初めてNC-R550bを通して目の当たりにすることができたのだ。

受精プロセスのさらなる解明に挑む

NC-R550bによって、今まで知られていた教科書通りの受精観察はできた。同時にそれ以外の新しい事実も浮かび上がり、その様子も証拠としてカラー動画で記録し、残すことができた。この成果は、受精プロセスを論じることにおいて、従来の概念を改めて考え直す機会になったのかもしれない。
今はひとつの説を確認しただけで、解き明かしたいことは多分にある。これからも顕微鏡撮影用スーパー超高感度カラーテレビカメラNC-R550bが映し出す超高感度映像を通して、受精プロセスを自分の目で確認しながら、新たな仮説を導きたいと広橋博士は考えている。

「今の実験は基礎だが、それをひとつひとつ解き明かしていくことで解明できることは多いはず。この研究が、不妊治療など様々な分野への礎になることを期待したい」と語る広橋博士。今後の実験成果に期待をせずにはいられない。

広橋教貴(Noritaka Hirohashi) 

理学博士

お茶の水女子大学 大学院人間文化創成科学研究科
ライフサイエンス専攻
遺伝カウンセリングコース特任講師